No1. BloodOrange "Freetown Sound"

勝手にPAMOSAアワード、ノミネート二枚目です。

文化の融合と歴史の積み重ねを感じる名盤。

 モハメド・アリは金メダルを獲得しても自身の周りの何もかもが変わらなかったことに虚無を感じ、そのメダルを川に投げ捨てたと言います。その頃から何十年経ったでしょうか。その頃に比べると現在は差別に対して世の中が厳しくなったので「改善した」と言って良いのかもしれませんね。

 で、現代に於いて「投げ捨てるもの」というのはありますでしょうか。特に黒人の文化にとって「権威を投げ捨てる」に等しい行為があるのかと考えるとそれは「お金」であると言えるかもしれません。セールスを伸ばすのに「ブラックナショナリズム」は不要なのです。つまりプライドの消失した何か良く分からない黒人音楽が増えた。特に90年代後半から00年代は暗黒期であったと個人的に回想しています。

 私自身の話からすると中学生の時から高校にかけてヒップホップの市場が最大成長したと記憶しています。ウータンクランのメンバーが常にラングストンヒューズの本を持ち歩いていたというのは何か言い訳めいた感覚があり、NELLYを始めとする南部系のラッパーが「ブラックナショナリズム」の価値を市場的に無意味なものにしたと僕は勝手に思っています。

 ただ、暮さないといけないという事情から人生の唯一の価値と物差しを「お金」だと信じて生きる人間になってしまう過程を嘆いたのはウータンクランでしたね。ブラックミュージックと聞いてどのジャンルを連想するか、それは人それぞれです。ソウルかもしれないし、ブルースかもしれない、ジャズもある。ただ、それらの音楽の偉大さは計り知れず現代でもすべての音楽の「骨」として機能しています。

 

ブラックミュージックの文化とセールスの両立

 ローリングストーンズがチェスレコードを訪れた時にペンキ塗りをしていた黒人がマディーウォーターズであったように、一部のビジネスライクでない黒人音楽はその「正気」を失わずに魂を継承しています。あまりにも「黒い」音楽はセールスに嫌われます。日本では極く短絡的な理由で左翼的な音楽がもてはやされた時代もありましたが、世界的に主張の強すぎる作品はあまり売れないですね。パブリックエネミーなどの例外ももちろんありますが。

文化の残した抜け殻を拾い集めたアルバム

そして、このアルバムです。ジャケットを見ると非常にシンプルな部屋で黒人の男女が抱き合うところです。なにより壁にMJことマイケルジャクソンの写真ですよ。熱い。

Connan Mckasinのジャケットに映っていたときもキャップはMJだったと記憶していますので、やはりこの辺の影響は非常に色濃い印象ですよね。音楽的にはMJというよりはプリンスの方が強い作りになってはいます。 

ゲイカルチャー、近年ではLGBTという言い方をしますね。そして、ブラックカルチャー。70年代のブラックムービーを彷彿とさせるキャスト。

と、いうことで、曲紹介です。

白眉はNo.2「Augustine」か。

哲学者、アウグスティヌスの名前をトラック名に使った曲です。このテーマがアルバム全体の芯となっている印象があります。冒頭で21歳でシエラレオネからロンドンへ移住した父親と同じ年齢でNYへ渡った自分を並行的に回想します。そしてフックでアウグスティヌスの「告白」から言葉を引用し完成させる訳です。”Late have I loved you, beauty so old and so new: late have I loved you. And see, you were within.”僕レベルの英語だと言い回しなどに重篤な間違いが発生するかもしれないので、個人的に雰囲気でこのアウグスティヌスの英語は受け取っておきます。とりあえず「告白」を読み直してみます(笑)

このあとにはホモセクシュアルなどに対する自己の積極性(彼自身がゲイであるかは分かりませんが)を表明したりしますがここにキリスト教へ「回心」したアウグスティヌスの思想との齟齬というか、食い違いも出てきます。キリスト教では宗派によってLGBTに非常にあたりが強いのですが、ここではアウグスティヌスの「愛」をテーマに使っています。恐らく、この相反する二つの紐帯としてこの曲を表現したかったのではないでしょうか。キリスト教の説く愛は同性にでも適用されるんだというような。ま、あくまで憶測の範囲を出ませんが。

最後にはユダヤ人の自警団によって射殺されたトレイボン・マーティンに思いを馳せながら、南アフリカの女性指導者Nontetha Nkwenkwe(読めない)に賛辞を送りながら。アフリカの言葉で曲を締めます。

 

全体的に自分の血から始まり、自身をとりまく「愛」に壁はないはずだと信じている曲のように受け取れます。曲の構成も素晴らしく、このアルバムでは白眉といえるのではないでしょうか。

豪華なゲスト

クレジットにもある通り、ゲストにはHadron ColliderでNelly Furtadoもいますし、なによりびっくりしたのがBlondyのデビーハリーまでEVPで客演しています。EVPはもう完全にプリンスっぽいですけどね。他にもたくさんいるので、クレジットを読むのも新たな発見があって面白いですよ。

Freetownはシエラレオネの首都の名前。

父親がかつて住んでいた場所は自身のルーツであり、血の故郷ですそこへの思いを馳せながらすべての曲を仕上げていく彼。このアルバムに対する彼の思いが非常に伝わってくる良盤です。 PAMOSAアワードノミネートです!!!